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「ふむ、トンネルのハッパだな」
「鬼倉といふのは女を二人置いとるさうぢやないか」
「半之丞の子は?」
房一はふりかへつた。
そこには一人の男が顔を手拭で蔽はれたまゝ、一種普通でない様子で寝かされていた。手拭の下からは赤黒く汚れた額の一部と、土埃にまみれた頭髪とがはみ出していた。その傍には、やはり印袢纏着の真黒い顔の男がついて、ぽかんとして戸外を眺めていた。
「お前、往診に出てた?」
「高間さんと云ふと、――ふむ、そんなら、わしとこの者もんが度々御厄介になつとる先生ですかな」
そこに、房一は、酒のために紅くなつてはいるが、そして、まだ額のあたりに筋張つた色が立つてはいるが、稍やゝ前こゞみになつた半白の頭を見た。それは河原町の人などには見られぬ線の粗あらさとどぎつさこそあつたが、想像したよりもはるかに老人だつた。
房一は話を変へた。
「しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?」
かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、
「さうか、――そんなに何もかも、こつちでして貰つてもえゝか」