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「いや、これから往診に行くところだ」
きよろりとした眼でしきりと家の中をのぞきこみながら、しばらくして
房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、
「はン」
「まあ、いゝでせう。せつかくぢやありませんか」――
「いゝよ、君。帰りたまへ、その方がいゝんだから」
と、さつき目にもとまらぬ速さで腕にさはつたときと同じく、軽くすつと身をひくやうにしたかと思ふと、もう背を向けてそゝくさと葭子張りの便所に入つて行つた。――
練吉はふつと思ひ出し笑ひをした。それは微笑と云ふよりは、気の好い、何だかすべつこい、いくらか相手を軽蔑したやうな表情だつた。
「それあきまつてる、猟銃だもの」
練吉は房一の腕にさはつて、囁くやうに云つた。近眼鏡の下から切れの長い練吉の眼が一種こつそりした親密な表情をのぞかせていた。突嗟とつさに房一はその囁くやうな調子や眼つきから、練吉が何のことを云つているのかを了解した。
「さうですか、さうですか。それは、いや、ごていねいなことで」
「うん、おれもこないだ通り合せたんだが、前を山支度の娘が寵をかついで歩いているんだな、するとやつぱり大声でからかつとつたよ」